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PEOPLE SHINCHOSHA

小説新潮編集部
N・Mさん

Profile

2000年入社。
営業部、芸術新潮編集部、出版部文芸第二編集部、小説新潮編集部を経て、2020年より小説新潮編集長。

 エンタメ系小説の編集にかかわって15年以上になります。今いる「小説新潮」は月刊誌なので、月ごとに緩やかなルーティーンの仕事があります。
 下旬:編集部全員で会議。企画を出し、それぞれの原稿の締切を確認。
 上旬:著者から届き始めた原稿を読み、必要があれば直しの相談をする。雑誌に載せられる状態になったら、印刷所に原稿を送る。
 中旬:印刷所から届いた試し刷りを著者に送り、チェックが終わって戻ってきたら雑誌の形に整えて、校了。
 と、1ヶ月ずーーっと、雑誌に載せる原稿のことを考えています。つまり「面白いって何?」ってことをずっと考えているのです。
 文章表現における「面白さ」は書き手によって千差万別ですが、ありとあらゆる種類の面白さに生で触れられるのが本当に楽しいです。
 今は編集長という立場ですので、編集部員が自分の「面白さ」を発揮できるよう、心を配っている…つもりです。

 以下は少し時間を戻して、これまでのキャリアについてです。
 入社から3年間、首都圏での書店営業に携わりました。絶対売れると信じて店頭に100冊積んでもらった新刊が、ほとんど売れずに返品…ということもありました。どんなに面白そうな本でも、売れなければ市場から消えていくという事実を身をもって覚えた場所でした。
 4年目で芸術新潮編集部に異動。専門的な美術教育を受けていない自分に務まるのかと思いましたが、全てが初めてのことで何もかもが面白く、次の異動の時には離れ難く思えたほどでした。ここでは取材のやり方や原稿の書き方、カラー誌面の作り方など、編集の実務を叩き込まれました。
 入社から8年目で文芸書の編集部へ。恩田陸さん、万城目学さん、窪美澄さんなど、日本のエンタメ系作家を担当しました。
 その傍ら、新書やノンフィクション、プロレスのムック本を手がけたことも。部署の枠にとらわれず、やりたいことは何でもできる会社だと強く感じています。

入社後一番の思い出

 原田マハさんの小説『楽園のカンヴァス』の単行本を編集したことでしょうか。
 原田さんは2005年にデビューし、多くの出版社から執筆依頼が殺到していました。なかなかお仕事をご一緒する機会に恵まれない中、元々アート関係のお仕事をしていらした原田さんから「『芸術新潮』を出している新潮社で、ぜひ書いてみたい作品がある」と連絡がありました。2009年ごろのことです。
 内容は、19〜20世紀に活躍した画家、アンリ・ルソーとピカソの交流を描いたアートミステリ。直前まで芸術新潮編集部に在籍していた自分にとって、これは絶対に面白い作品になる! と確信しました。
 打ち合わせを重ね、小説新潮で連載が始まったのが2010年のこと。2012年に出た単行本は山本周五郎賞を受賞、文庫版になってからも「新潮文庫の100冊」に入るなど、今も読まれ続けています。
 自分が関わった作品が、新潮文庫に入り、作家の代表作として長く愛され続ける――この会社で仕事をする醍醐味だと思います。

ある日のスケジュール

6:30
起床、子供(小学2年生・男子)を起こして朝のしたく。
8:00
子供を送り出す。急ぎのメールやチャットに返事しつつ、晩ごはんの下ごしらえなど家事にいそしむ。
11:00
出社。新潮社主催の文学賞贈呈式の準備作業をしたあと、雑誌の売り上げをチェック。来月号の原稿やこれからの企画について、編集部員との打ち合わせが続く。
17:30
退社。まわりの人はまだ仕事をしているので、メールやチャットがスマホの中を飛び交う。電車の中で読んで、さばけるものはさばく。
18:30
帰宅。この後、仕事のメールやチャットは見ない。19時に夕食、20時すぎに子供をお風呂に入れ、21時半~22時に寝かしつけ。就寝までは自由時間で、ワイン片手にネットをぼーっと眺めたり、趣味の宝塚歌劇団のDVDを見るなど。
23:30
就寝。

なるべく週に1、2日は予定を空け、原稿や本をまとめて読む時間を作っています。

Off-Time

 どこにいても、何をしても仕事につながってしまうのがこの職業。なので、頭を空っぽにする時間を意識して作るようにしています。校了中など、机に座る時間が長くなったら席を立って、屋上からぼーっと景色を眺めたり。
 休みの日は公園や温泉など、自然に近い場所へ向かうことが多いです。先日は青梅にキノコ狩りに行き、椎茸を1.5キロも獲ってしまいました(おすそわけと冷凍でなんとか食べきりました!)。
 神奈川県の三崎に会社の保養所があり、美しい景色と美味しいご飯を求めて家族で通っています。写真は保養所から徒歩1分の海辺。晴れると富士山が見えます。

就職活動中の皆さんへ

 このページを見る方で、小説新潮を買ったことがあるという方はきっととても珍しいと思います。どんな読書家でも、小説誌の仕事ってなかなかイメージが湧かないのではないでしょうか(私もそうでした)。
 小説誌は、単行本や文庫を育てるための、いわば畑の役割を担っています。
 作家さんという種を探してきて、物語がうまく育つための企画を考え、水をやったり風を避けたりしながら毎月原稿をいただいて、一つの作品を完成させる。それが小説誌の仕事です。

 学生時代、就活がイヤでたまりませんでした。マスコミ志望の友人が次々に面接に進む中、自分は数社を受験するのがやっと。ずっと思っていたことは「毎日が『文化祭の前の日』ならいいのに」。完全なモラトリアムです。
 でも今、小説が次々に生まれる現場にいると、あれ、もしかして夢かなってる?と思うのです。明日はどんな面白い原稿が来るだろう、どうしたら読者にもっと届くだろう、とわくわくしている自分がいます。
 畑仕事は楽しいことばかりではありませんが(雑草が生えるし虫がいたりします)、芽が出て花が開き実をつける、その瞬間のうれしさはこたえられません。そのうれしさを味わってみたい方、ぜひ一緒にお仕事しましょう! お待ちしています。


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