人を知る
PEOPLE SHINCHOSHA

Profile
2008年入社。
週刊新潮編集部、新潮新書編集部を経て、2017年よりコミック&プロデュース事業部でライツ事業に携わる。
現在、コミック事業本部コミックライツビジネス室。
私の部署は「版権事業(ライツビジネス)」をしています。新潮社の作品を「書籍以外のコンテンツ」にする仕事、たとえばドラマ・アニメ・映画などの「映像化」や、商品化やキャラクター利用などの「二次利用」をしています。
具体的には、企画の選出/各企業との交渉やコミュニケーション/著者や社内の意思決定/脚本や宣伝物の監修/契約の締結/海外企業とのやりとり/作品の売込みなどを、包括的に担っています。
書籍の売上が落ち込む昨今、出版界の活路は「版権収入」にこそあります。世界に通用する日本の出版コンテンツを、様々な形式に転換し、より多くの人に楽しんでもらい更なる利益を生むこと、これが使命でありやりがいです。
最近は特に、NetflixやAmazonなどの海外配信サービスや、アメリカ・韓国・中国など、海外制作会社との交渉が増えてきました。法律や文化の違い、外資独特の意思決定や契約の厳しさから、海外企業の交渉は日本企業よりはるかに厳しく複雑ですが、世界基準のコンテンツビジネスのダイナミズムと、日本のコンテンツのポテンシャルを改めて実感し、非常に面白いです。
私は入社以来ずっと編集系の部署にいましたが、数年前に今いる部門への異動を希望しました。コンテンツビジネスへの興味は勿論、働いていく中で「自分の特性」に気づいたからです。
恥ずかしながら私は、「●●さんに書いてほしい」「○○を本にしたら面白い」といった、自分自身の主観や感性、感覚を信じることが苦手でした。理屈や合理性で判断をしたいし、明確な条件や指標で分析したいし、問題点や課題や矛盾を解消したい人間でした(ちなみにMBTIは何度やってもINTPです)。編集者としてはやや不適格なこの特性も、ビジネスの側面では著者や編集者の一助になっていると信じています。
私は「物語」や「テキスト」を愛し、その力を信じ、携われることを幸せに思っています。しかし「どう携わるか」については、編集・営業・宣伝・ビジネス・デザインなど多様な職種があり、その多様さこそが出版社の面白いところです。

入社後一番の思い出
振り返ると入社以来、仕事の重要な局面で「手紙」をよく書いてきました。真摯な「手紙」であるほど、相手の心に響き、物事が動き出す。そんな経験が幾度もありました。
週刊誌記者時代にどうしても話を聞かせてほしいと郵便箱に入れたメモ。編集者時代に憧れの人に本を書いてほしいと伝えた手紙。今の仕事でも、大きな決断や交渉の際には長文のメールをしたため、我々の率直な考えや感情、希望や不安、誠意や感謝を伝え、信頼を構築した上で先に進めるように努めています。
この時代、手紙というのは回りくどい手段です。一度自分の気持を整理し、何を伝え・伝えないかを選択し、どの表現が最も伝わるかを熟考し、ようやく文章を綴る。時間と手間と想像力が必要です。だからこそ、手紙は今なお、受け手の心を打つのかもしれません。
そして手紙を書く行為自体が、出版の営みによく似ている。本は著者や出版社から読者へ宛てた手紙でもあります。そう考えると、大事なことを伝えたいときに手紙を書く人は、この業界がきっと向いています(ちなみに出版社の人間は、他業界の人にもついつい長文を送りつけて驚かせがちです)。
ある日のスケジュール
- 8:00
- 起床。とはいえ目が覚めただけ。ベッドの中で緊急に処理する案件がないかだけ確かめたら、うとうと夢の続きを見る。朝が弱い人間にとって(血圧86/42)、ここは優しい業界です。
- 10:30
- コーヒーの力でようやく脳が覚醒したら、タスクをひたすら処理します。常に十数作品の企画がバラバラに進行し、担当者や相手先も異なるため、脳内は常にガントチャート状態。とはいえコロナ以降、アナログな我が社にもTeamsが導入され、格段に効率が良くなりました。
- 14:00
- 他社との打合せ。コロナ禍以降は在宅で作業することも増えましたが、大事な打合せは今も「対面」が多く、これに合わせて出勤します。打合せでは、「言いにくいことは初めに言う」「かならず言質を取る」ことを心がけているので、他社さんから印象が悪いかもしれません…。
- 20:00
- 友人やマスコミ同業者と食事。話題のコンテンツがなぜヒットしているか(あるいはダメか)を分析して議論するのが好きです。また、業界のゴシップや裏情報は、意外と有事に役に立ちます。ちなみに神楽坂はあらゆる出版社の人間が集うので、秘密話は危険です。
- 0:00
- 帰宅。積み残しを得意の夜ふかしで処理。朝の自分を全く信用していないので、前の夜に「朝一番に予約送信」を大量に仕込んでおきます。
- 2:00
- 就寝。本当はもっと夜ふかししています。
Off-Time
KPOPのファンを約10年(!)してきました。世界中の現場に行き、歴史的瞬間を目撃し、アジアの歴史文化に触れ、世界へコンテンツが波及するダイナミズムにも触れ、沢山の同志ができました。
しかし、いよいよ世代が一回りし、推しも兵役に就くため、私もいよいよ卒業の予感です。今後は培った知見を仕事などに活かしつつ、後進をサポートする所存です。(写真は集大成として行った釜山)。
ちなみに出版業界はヲタク率が異常に高いです(特に女性のドルヲタ率)。ヲタクはその知識自体が仕事になり、仲間もでき、話のネタにもなるので大歓迎です(身を滅ぼさない限り)。

就職活動中の皆さんへ
「好きなものは仕事にしないほうがいい」という話をよく聞きますが、個人的には「好き」と「得意」が重なるのが一番幸せな仕事だと思っています。ただ、実際に働いてみないと自分の「得意」は分からないし、業務や職種によって必要な能力は全然違う。だから就活では「好き」を追求してもいいのかなと思います。
実際に出版業界では、十代のドキドキワクワク、思春期の記憶や刺激や原体験が、そのまま仕事の原動力や推進力になります。
授業そっちのけで本や漫画を読みふけったあの頃、主人公に憧れてスポーツや楽器を始めたあの頃、妄想しすぎて現実や公式との境界を見失ったあの頃、推しに会いたいと思い焦がれたあの頃、ノンフィクションが伝える世界の現実に落ち込んだあの頃、カリスマの自己啓発に傾倒したあの頃…。
そう考えると、この業界で活躍している人は、「思春期の心」を、大人になっても大人気なく持ち続けている人ばかりです。
加えて新潮社は、個人のドキドキワクワクを認めてくれる「寛容さ」があります。実際、この寛容さによる弊害は多々あるのですが(!)、当人にモチベーションさえあれば、個人的なドキドキワクワクを追求できる環境が確かにあるとお伝えしたいです。
